グループホームで暮らす母のもとへ、定期的に面会に通っています。
大きな変化があるわけではなく、会話の内容も毎回ほとんど同じ。
でも、そんな時間が、今の私にとっては貴重な時間です。
母らしい光景に、思わず苦笑
玄関を入ると、ホールの正面のいつもの席に座る母の姿が見えます。
その隣には、いつもの入所者さん。
先に私の姿に気づいたその方が手拍子を始め、それを見た母が「手なんか叩かないの」とピシャリ。
ああ、母らしいなぁと思わず笑ってしまいます。
私が声をかけても、やはり母は私のことがわからない様子。
それでも、「膝はどう?腰は痛くない?ご飯は食べた?」
そんな質問には、しっかりと返事を返してくれます。
内容は少しあやふやなところもあるけれど、ちゃんと“会話”として成立しているのが、すごいと思います。
「アンタの名前は?」と母は聞くけれど
「アンタの名前は?」と母がたずねてきます。
私が名乗ると、決まってこう返してきます。
「小さい頃しか顔を見てないから、今、急に来たってわかるわけないわよ」
これは、在宅だった頃、たまに来る孫たちに言っていた言葉。
私と一緒に暮らしていたことは、もう記憶にないようです。
「今、どこに住んでるの?」と聞かれるので、町内の名前を答えると、
「じゃあ、私と同じところに住んでるのね」と返ってくる。
この会話のループも、すっかりおなじみです。
覚えていることと、忘れていること
不思議なのは、母の記憶の“引き出し”の開き方。
私たち家族と暮らしていた家のことはほとんど覚えていないのに、実家の話になると急に饒舌になります。
「向かいには〇〇商店があって、近くには〇〇パン屋さんがあったのよ」
そんな昔の風景を楽しそうに語る母の顔は、どこか懐かしげで、愛おしく感じます。
一方で、かつて仲良くしていたご近所さんの名前を出しても、母は首をかしげるばかり。
「知らないわねぇ」
そしてついには、「あの町内では、近所付き合いなんてまったくなかったんだから!」と少し強い口調で言い切られてしまいました。
――いやいや、そんなことはなかったけどなぁ。
「ここは私の家」と言う母の世界
ホールには他の入所者さんたちも数名いて、スタッフの方々も忙しそうに動いています。
でも母は、「ここは自分の家。私はひとり暮らしなの」と言います。
となりで一緒に歌を口ずさむ入所者さんのことを、母は誰だと思っているのだろう。
そう考えると、認知症というのは、本当に不思議な世界です。
「ごめんね、何にも持たせてあげられなくて」
面会の終わりに「また来るね」と声をかけると、母は少し申し訳なさそうにこう言いました。
「ごめんね、なんにも持たせてやるものがないわ」
その口調は、認知症になる前の母そのもの。
“娘に何かを持たせてあげたい”という母心は、今もちゃんと残っているのだと知って、うれしく思う反面、それも切ない。
私はまだ、認知症の母のことをちゃんと理解しきれていないのかもしれません。
今日も変わらず、母はそこにいる
帰り際、スタッフの方が声をかけてくれました。
「このお部屋の中では、一番しっかりしてますよ」
母は、私のことが誰かわからなくても、穏やかに笑顔で会話をしてくれる。
記憶の順序や内容が違っても、こうして一緒に過ごせる時間がある──
それだけで十分、ありがたいことだと思えるのです。
また近いうちに、母の顔を見に行こう。
今日も変わりなく過ごしている母の姿を見ることが、今の私にとって一番の安心だから。
コメント
そらはなさま
こんばんは
お母さまについての文面には、そらはなさんの優しさが滲み出ていますね。お母さまがいらっしゃるグループホームもとても良心的な施設とおみうけします、念入りにリサーチされたのだとは思いますが、そらはなさんの優しいお気持ちに導かれた結果だとも思います。
さてさて、私は昨日レミゼの札幌公演観てきましたよ〜
飛行機はそれほど揺れませんでしたが、札幌はあいにくの雨模様でした。ライラックの花が、あちこちに咲いていて素敵でしたよ。劇場から二条市場に向かう川沿いの遊歩道にはいろいろな種類のライラックが植えられていて雨の中の散歩でしたが、とても楽しめました。
帰りの飛行機までの時間が少しあったので永山邸のお庭も散策してきました、プラタナスの優しい緑に癒されましたよ。
もちろんもちろんレミゼからの感動は言うまでもありませんでしたが、しばしの間日常を離れ、有意義な時間を過ごすことができました。そらはなさんは今週ですか?
お天気に恵まれますように御感想楽しみにしています
かこたつさんへ
こんにちは(^^)
母も穏やかにグループホームで暮らしてくれているおかげで、私も札幌へレ・ミゼラブルを観に行くことができました。
お天気もよかったので、札幌の街はどこもかしこもキラキラと輝いて見え、本当に充実した観劇旅行でした。
二条市場や永山邸にも、今度行ってみたいと思います。
どうか、「今度」がありますように!