雨の予報だった伊勢の朝。
けれど、空は思いのほか穏やかで、なんとか天気ももちこたえてくれそうでした。
宿泊先は、伊勢神宮・内宮にほど近い「いにしえの宿 伊久」。
せっかく伊勢に来たのだから、朝の澄んだ空気の中で参拝したい──そう思って選んだ宿です。
宿で早起き
朝4時。
まだ空がぼんやりと明るくなり始めるころ、そっと起き出して、誰もいない露天風呂へ。
木々の間から聞こえる鳥の声、ほんのり漂う湯けむり。
静寂に包まれた湯船で、心も身体もふわりとほどけていきます。
ロビーでは、4時半から「かたぱん」とコーヒーのサービスがあります。

かたぱんのサービスがあります
素朴で、噛むほどに広がるやさしい甘みと、温かいコーヒーが朝の目覚めにぴったりでした。
いざ朝参りへ
5時半。
まだ人影もまばらな時間帯に、宿を出発。
お借りした傘は幸い出番もなく、むしろ杖代わりに(笑)。

伊久の裏手階段を降りると内宮まで近い
宿の裏手にある階段を下りると、内宮まではわずか15分。
朝の散策にはちょうどよく、ゆっくりと景色を楽しみながら歩けるルートです。
おはらい町に入ると、ツバメたちが元気よく飛び交い、軒下では雛たちが口を開けて親鳥の帰りを待っています。
▲ひな鳥に餌を運ぶ親鳥
そんな命の営みに心がほぐれていくような気がしました。

内宮へ続く早朝のおはらい町
この時間帯に唯一開いていたのが「赤福本店」。
朝5時開店ということもあって、元気な「おはようございます!」の声に出迎えられ、旅の朝がよりいっそう温かく感じられました。
伊勢神宮は、願う場所ではなく、感謝を伝える場所
参道には、私たちと同じように朝参りをする方たちがちらほら。

内宮到着!
けれど日中の賑わいとはまるで別世界。
しんとした空気に包まれた神宮は、まるで時間が止まったかのようでした。
昨日通った玉砂利の道を、今朝はゆっくりと、心で踏みしめながら歩きます。

伊勢神宮内宮 参道は玉砂利
玉砂利の感触、木々のざわめき、肌に感じる心地よい風。
2000年前、この場所に神宮が造られた時のことを想像しながら歩くと、心がタイムスリップしたかのようになります。

正宮石段上で写真撮影すると警備員さんに注意されます!
8年後に予定されている式年遷宮に向け、今は何もない正宮隣の敷地も、どこか厳粛な空気に包まれています。
まるで、その土地自体が未来を見据えて静かに息をひそめているようでした。
伊勢神宮は、「お願いをする場所ではなく、感謝を伝える場所」とされています。
私は、ただただ「ここに来られたことがありがたい」と、その想いだけを胸に、そっと手を合わせました。
荒祭宮で、心からのひとつの願い
内宮の奥には、荒祭宮(あらまつりのみや)という別宮があります。
昨日、ガイドさんから教えていただいたのですが、ここでは唯一お願い事をしてもよいとされています。
祀られているのは、天照大神の「荒御魂(あらみたま)」。
神が直接働きかけ、行動する力を象徴する存在なのだそうです。
だからこそ、お願いには「努力しますので…」という言葉を添えるのが作法。
何を願おうか、しばし迷いました。
でも、自然に口をついて出たのは──
「これから、まだ行ったことのない日本のすべての都道府県に旅行に行けますように」
そして、心を込めて「努力しますので」と続けました。
努力とは、心も体も元気でいることだ・・・と自分に言い聞かせました。
旅の朝がくれた、静けさと整う心
朝の伊勢神宮は、言葉にならないほどに神聖で、美しい空間でした。
誰かに何かを伝えたくなるのではなく、ただその場に“いる”ことの喜びを、静かに味わう時間。

いにしえの宿 伊久
そして「いにしえの宿 伊久」は、その特別な時間へと、そっと背中を押してくれるような宿でした。
旅の中でふと立ち止まり、静かな空を見上げる時間。
伊勢の朝参りは、そんな“整うひととき”をくれました。
伊勢神宮御朱印
余談ですが…。
伊勢神宮の御朱印はとてもシンプルです。
シンプルすぎて拍子抜けしましたが、それはちゃんとした理由があるからなんですよね。
1. 信仰が中心
記念や観光ではなく、純粋な「参拝の証」として出している。
2. 格式の高さを表すため
シンプルさが、特別な存在であることの証。
3. 日本古来の信仰スタイル
あえて飾らないのが伊勢の美学。
4. 参拝者が多いため
年間800万人以上が訪れるため、簡素な御朱印で対応している。
5. 流行に流されない
カラフルな御朱印ブームとは一線を画し、伝統を守っている。
この「そぎ落とされた美しさ」こそが、伊勢神宮らしさなんですね。
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