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認知症の母が人のせいにした時の対処の仕方

母がいつもとは違う時間帯に私の部屋へやってくる時は、たいてい何かトラブルが発生したときです。
そして、その時母はたいてい怒っています。
認知症の人は、突然怒り出すのが特徴だとも言いますが、母の場合は必ず誰かのせいにして、怒っています。
今回の標的は、孫たちでした。

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孫たちがあちこちいじっておかしくなった

「トイレの便座に座ったら、便座がとても冷たくてびっくりした!」

最初に母はそう言いました。
そして、「夜中に孫たちがトイレに入って、どこか勝手にいじったからだ」と言いました。

母が使っている実家のトイレの便座を触ってみると、いつもとなんら変わらず温かい。
母にそれを伝えると、「私があちこち(調節スイッチを)触って、直したんだよ。だけどちょっとスイッチを見てくれない?」と母。

便座の温度は、中くらいの位置。
ウォシュレットの温水の温度も中くらいの位置。
ウォシュレットの水の勢いも中くらいの位置。

「これで大丈夫だよ」と母に言うと、母は怒った表情で「夜中に孫の誰かがトイレを使っていたもの。その時あちこちいじって、おかしくなったんだ」と言います。
「ああ、そうなの?それでおかしくなったんだね」と、私も言えばいいものを
「ふーん、子どもたち、こっちのトイレに入って、勝手に調節スイッチ動かすかなぁ」と、つぶやいてしまいました。

すると母は、まるで子どもが地団太を踏んで怒るように、さらに表情を強張らせて言ったのです。
「私は夜中に孫がトイレに入る音をちゃんと聞いていたんだ!トイレを使ったのは間違いない!その時あちこち触ったんだよ!!」

さらに翌日も、母は血相を変えて私のところへやってきました。
今度は、ウォシュレットが温水ではなく冷たい水になっている・・・と。
そして、やっぱりこうなったのは、孫たちがいじったからだ、と言いました。

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いじっていないし壊れてもいない

私が実家のトイレを使ったのは十数年ぶりです。
ふだんは自分のところのトイレを使いますから、実家のトイレなんて入ることはありません。

母が怒って何度も、便座が冷たいだの、今度はヤケドするくらい熱いだの、ウォシュレットの水が冷たい真水になっているだの言うので、私も実家の便座に腰掛けてみたんですよ。

まぁ、便座はちょっと熱めになっていたので、設定温度を下げました。
そして、ウォシュレットを実際に使ってみたのですが、真水ではありませんでした。
ちょっとぬるめかな・・・という程度だったのですが、前日から外気温が急激に下がり真冬の寒さとなったのですから、ウォシュレットの水もいつものように温まりにくいかな、とは思いました。

トイレの調節は誰もいじってないこと、孫たちも触っていないこと、今日は一段と冷えるから、なかなか温まりにくかったかもね、と母に言うと、さらに母は声を高くして叫ぶように言ったのです。

「私はちゃんと聞いていた!夜中に孫がトイレを使っていたんだよ!」

放っておけばいいよ

帰省したその日、子どもたち3人がそろって、実家の母の部屋を訪ねました。
1人1人孫の名前を呼んで確認していた母は、最後にこう言いました。

「じゃあ、今日来ていないのは〇〇(長男の名前)だけだね」と。
長男は母の目の前に座り、つい数秒前に母が名前を呼んでいたというのに。

トイレ騒動があった時、すぐに子どもたちに確認すると、次男が夜中に1回だけ実家のトイレを使ったとのことでしたが、便座やウォシュレットの温度調節スイッチなんて触るわけがありません。
長男も娘も実家のトイレは使っていません。

「もぉ!おばあさんがさ、あなたたちの誰かが勝手にトイレのスイッチをいじって、おかしくなったって言うから、誰もいじってないよ!って言っちゃったよ」
半ば愚痴をこぼすように、子どもたちに言うと、長男が言いました。

「いいの、いいの、そういう時は黙って言わせておけばいいんだよ。すぐに忘れるんだからさ」
目の前に座っていながら、自分の存在を忘れ去られてしまった長男の言葉は、説得力がありました。

受け止め共感するのは難しい

母には、どう説明してもわかってくれなかったので、最終的にはトイレが壊れてしまったことにしました。
便座もウォシュレットの水温も調節機能がうまくいっていないようだから、明日業者に電話してみてもらう。
そう母に伝えると、不満そうな顔をしながらも、母はそれ以上怒ることはありませんでした。

実際、ウォシュレットの温度は最高温度まで上げても、イマイチ温かくはならなかったのですから、本当に業者さんにみていただこうと思っていました。

ところが翌朝、母が私のところへやってきて言いました。
「今朝は、ちゃんとトイレの水が温かかった。きっと温まるまで時間がかかったんだね」
昨日からそう言ってるだろ!・・・という心の声はしまって、「よかったね」とだけ母に伝えました。

もう3人の子どもたちは、みんなそれぞれ自分の住処に帰っていってしまった後だけど、わざわざこの顛末をLINEで伝えるのもめんどうだし、私が気にするほど、子どもたちは気にしていないでしょう。
そう、子どもたちのほうが、はるかに母への接し方が上手なんですよね。

そして、わかったんです。
便座が熱いだの冷たいだの、ウォシュレットが真水だのという母の訴えを、トイレが壊れたと結論づけたことは、母の訴えを認めてあげたということなんですよね。
だから母の怒りがおさまったのだと思うのです。

誰もいじってないよ、どこもおかしくないよ、と言うことは事実ですが、それでは母の訴えを否定しているにすぎないのです。
認知症の人の話を聞くときは、「まずは受け止め共感しよう」と言いますが、それができれば苦労はしないわ!と思ってしまいます。

「放っておけばそのうち忘れる」
これなら、まだできそうな気がします。

どうして人のせいにするのだろう

認知症になると、感情の抑制ができなくなり、怒りっぽくなるといいます。
いろいろなことが理解できなくなり、昔はできていたことができなくなっていることを、本人も感じています。
しかし、プライドはいつまでも残るので、自分の失敗を隠したり、自分の威厳を守ろうと必死になります。

その手段のひとつが、「誰かのせいにする」ということなのです。

母も、自分でしまい込み忘れてしまったものを、しょっちゅう私に「あんたが持って行ったのか?」と聞きます。
病院に行く日をカレンダーに記載しているのに、日付の認識がもうわからないので、「目が見えにくくなったからカレンダーもよく見えない」と言います。
トイレが壊れたと思い込んだ母が、自分で調節スイッチをあちこち押して温度設定がまちまちになってしまったことを、母は孫たちのせいにしました。

誰かのせいにしたり、言い訳を言ったりした時、私が淡々とそうでないことを説明すると、ますます怒り出すのも、自分のプライドを守るための最大の抵抗なのだと思います。
今はまだ、問題が解決すると納得する母ですが、いずれ「誰かのせいにする」ことが妄想へと発展していくのかもしれません。

妄想は、どんなに否定しても訂正しても、本人の思い込みは変えられないものです。
私がムキになって否定すればするほど、本人はますます興奮し、怒り出すんですよね。
毎日母と接する中で、十分学習する機会はあるのですが、今回もわが子のせいにされたことが、どうにもこうにも腹立たしかったのです。

しかし、認知症の人が誰か(何か)のせいにしたとしても、それは自分を守る手段であると思えば、対等に返事などせず、のれんに腕押し状態でかわすくらいが調度いいのでしょうね。

放っておけば、そのうち忘れる。
長男が教えてくれたことを、今度こそ実践したいなぁ・・・と、心に誓った2018年の冬。

コメント

  1. どんぐり より:

    こんにちは。
    認知症は、攻撃的になり、しかしながら自分のプライドは持ち合わせてているため、誰かのせいにする。という言葉に、91歳の祖母を思い出しました。現在は、施設に入居しております。
    祖母も、認知症になって施設に入る前までは、母の弟家族と同居していて、ものがなくなる!誰かがとっている!誰だ!と怒り、部屋にある全ての持ち物に 自分の名前を書いていました。認知症だけで体は元気そのもので。。。すぐに施設入居という風にはいかず、デイケアなど利用しつつ、将来的には預かってもらう形にしたようです。
    昔はチャキチャキの博多の女そのもので、しっかり者で、気が強く、手先も器用な女性で認知症になるなんて誰も思ってませんでした。
    義理の叔母は、認知症になって同居してた頃は、祖母が何かにつけて怒りをあらわにしながら自宅階段をのぼってくる足音が本当に恐怖だったようです。。
    家族で支えていく。と言っても、本当に同居するものの立場からすると、そらはなさんの、精神的な心労も計り知れない。と思い思わずコメントしました。思わず、祖母と重ねて思い出しました。

    • そらはな より:

      どんぐりさんへ♪
      どんぐりさんのおばあ様も同じような状況だったのですね。
      うちの母も、しっかり者で気が強くて賢くて、やはり認知症になるなんて思っていませんでした。
      実は、私も母の足音が廊下から聞こえてくると、身構えちゃいます。
      今度は何を怒ってるんだ?ってドキドキします。
      人は必ず歳をとるものですが、記憶が失われるのって本当にどうしようもないですもんね。
      自分はどうなるのかなぁ・・・なんて、最近考えてしまいます。

  2. でぶねこ より:

    主人がブックオフで『認知症「不可解な行動」には理由(わけ)がある』という本を買ってきました。(大阪大学大学院教授 佐藤真一著)
    この本には、こう書かれています。
    「人は自己を否定しては生きていけませんから、自己否定しないのはほとんど本能のようなものであり、自己否定しそうな場面になると自己防衛が働き、自己を肯定する方向に認知を変えます」
    「本来ならばもっとも大切にしなければいけない人に暴言を吐いてしまうのは、認知症になると抑制がきかないことや、相手の心が推察できないこと、セルフモニタリングが働かないことなどが原因です。セルフモニタリングとは、自分の姿をもう一人の自分が見ることです」
    「親身になって世話をしているのに暴言を吐かれるのですから「私のしていることは何なのだろう」「この人は何もわかっていない」と悔しく悲しい気持ちや徒労感がこみ上げてきます」
    「介護する人は言われれば腹が立ちますから、当然いい返します。しかし、それはよくありません。無理もないことではあるのですが、妄想状態にあるときは興奮していますから、言い返すとよけい興奮させてしまい、状態が悪化するのです」

    今回、そらはなさんがとられた行動は手に取るようにわかります。
    私も義母の宝石の件で身に沁みました。夜中に1時間以上、引き出しをバンバン開け閉めし、聞けば宝石がないことを泣きわめき。。。
    嘘をつけなかったので「お正月に姪や義妹にもらってもらったんだよ」と言っても、それはもう義母にはまったく記憶にないことですから。
    今は、宝石を返してもらい、引き出しにこっそり入れておいたら、まったく言わなくなりました。
    ↑今度は何怒ってるんだ?って、それもよ~~~~~~くわかります~~~~!!!
    まったく同じだわ^^;

    • そらはな より:

      でぶねこさんへ♪
      情報ありがとうございます。
      私も、父が亡くなった直後の母の言動に耐えられなくて、休みのたびに図書館へ行って、認知症についての情報を読み漁っていました。
      少しでも理解が深まると、またちがった目でみることができるというか、理由がわかると納得できるというか。
      でも、実際に目の前で暴言はかれたら、やっぱり凹むものですね。
      不思議ですよね。
      なんで認知症になると、みんな同じような行動をとるんでしょうね。
      脳の不思議ですよね。
      早く認知症の特効薬ができるといいなぁ。

  3. とも より:

    こんばんは。ご長男ナイスプレーですね!負うた子に教えられですね。
    第三者の冷静な視点は、ふっと気持ちを軽くしてくれますね。

    先週見たテレビで、俳優の芦屋小雁さんが認知症になられて、奥様が在宅介護をされてました。
    二泊三日の初めてのショートステイをされる時、宿泊することはサイン会をするためと話していました。方便なんですが。
    でも小雁さんは帰る!と怒り出し、一睡もせず奥様に電話されてました。結局一泊で中止し、家に帰りました。奥様はビクビクで再会されましたが、当の本人は怒ったことも何にも覚えていませんでした。
    ご長男の仰るとおり、忘れてしまうんですね。
    私もつい母が認知症であることを忘れて、反論してしまいます。娘だからしょーがないですよね。

    • そらはな より:

      ともさんへ♪
      芦屋小雁さん、認知症なのですね。
      それを公表し、テレビ撮影してるんですね。
      勇気がいることだと思いますが、啓発活動になりますよね。
      生き方とか、生き様について、考えることが増えました。