「お金の管理ができなくなったら、もうおしまいだから!」
母はたしかにそう言いました。
ああ、そういうことだったのか。
軽度認知障害(MCI)で数分前に言った言葉すら忘れてしまう母が、なぜにここまでお金にこだわるのかがようやくわかったような気がして、逆に安心しました。
どんなに高齢でも、どんなに物忘れがひどくなっても、その時言った言葉には、ちゃんと意味があるんだなぁ・・・なんてことを考えたりしました。
中核症状と周辺症状
認知症は、脳細胞がダメージを受け脳本来の働きが低下するために様々な症状が表れます。
記憶障害:今、言ったことをすぐに忘れる
失語:読み・書き・話すができなくなる
失行:着替えや歯磨きなどのやり方がわからなくなる
失認:見たり聞いたりする情報が理解できなくなる、考えるスピードが遅くなる
遂行機能障害:料理など手順を踏んだ作業ができなくなる
見当識障害:日時や季節、場所、人がわからなくなる
これらは認知症の中核症状と呼ばれます。
そして、中核症状の出現による不安や、本来の性格、環境などが複雑に絡み合って起こる症状を、周辺症状と呼びます。
不安、暴言暴力、幻覚、妄想、徘徊、失禁、睡眠障害、昼夜逆転などなど。
実際に関わる家族を困らせるのが、これらの周辺症状なのです。
母の場合は、著しい記憶障害があります。
自分で言った言葉も数分後には忘れてしまい、また同じことを聞いたり言ったりするというのは、もはや日常茶飯事。
幸い、新聞を読んだり字を書いたりすることはできますし、日常生活も特に支障はありません。料理などはほとんどやらなくなりましたが、ご飯を炊いたりお湯をわかしてお茶を入れたりすることはできます。
今日が何日かというのは、もはやカレンダーをみてもわからないようなので、見当識障害も少しずつ進んでいると思われます。
まぁ、私も「今日何日だっけ?」と考えることはよくあるので、人のことは言えませんけどね。
新しい情報はほとんど理解できませんので、・・・というより考えることを「めんどくさい」といってやらなくなったので、失認もあるのでしょう。
母が認知症の薬であるレミニールを内服するようになってから約1年。
周辺症状に大きな変化はありませんが、やはり少しずつ中核症状は進んでいるんだなぁ・・・と思われます。
定額貯金が満期になって
母名義の定額貯金が満期を迎えるので、手続きにきてくださいというハガキが届いたのが2か月ほど前。
そのハガキを見ては毎日のように「これはどうすればいいんだ?」と聞く母に対し、「時期がきたら私が手続きをしてくるから大丈夫」という会話を2か月間毎日!繰り返し、いよいよ満期の1週間前になりました。
「今日、郵便局の人から電話があった」
私が仕事から帰ると、母が自分で書いたメモを見ながらそう伝えてきました。
もちろん母の定額貯金の件だとはすぐに察しがついたのですが、あえて「なんて言ってたの?」と母に聞きました。
「知らない」と母。
「なんだか言ってたけど、さっぱりわけがわからなかった」とも。
そして「いったいなんなんだ?」と聞くので、定額貯金の満期の話と、私が手続きに行くから大丈夫だと伝えました。
ところが翌日になって母は急に怒ったように言い出したのです。
「どうせ私もこの歳だから、もうお金は郵便局に預けられないんでしょ!お金は全部おろして別の銀行に預ける!」と。
あわてたのはこの私。
ええーっ!郵便局のお金をおろして、それを持って今度は銀行に行って手続きしなきゃならないのぉ?
しかし、もっとあわてたのは郵便局側だったのですよね。
外面と内面と
担当の郵便局の方へ電話をして、いったい母へなんて伝えたのか聞きました。
郵便局の方が言うには、母は「もう私も歳だし、これからは若い人たちにお金を管理してほしい。お金は若い人たちに移したい」と言ってきたそう。
それでは手続きが複雑になるので、このまま定額貯金の書き換えをしたらどうかと郵便局員は提案したのですが、何度言ってもわかってもらえなかったそうで、ならば娘の私がいるときに再度伺う・・・と伝えたそう。
「若い人にお金を管理してもらう」なんて、私には一度もそんなことは言ったことがなかった母でしたから、驚いたのは私のほうでした。
父が亡くなったあと、銀行のお金の管理をめぐっては私も相当嫌な思いをしたので、もう母のお金に関しては、いっさいノータッチでいこうと決めていました。
母が通帳を管理していて、時々「お金をおろしてきて」と頼まれた時だけ私がお金をおろしにいく。
こういう形でようやく母も落ち着いてきていたので、私も触らぬ神に祟りなしといったところでした。
それにしても、母は郵便局の人にはそんな言い方をしたんだなぁ。
「もう若い人にまかせますよ」的な、さも物分かりのいい口調でいて、しかし実際は、お金の管理はすべて自分でやらなければ気が済まない。
私が少しでも何か口を挟もうものならとたんに怒り出すのですから、お金に関してだけは何も言わないのが、何よりの精神的安定なのですよ、私にとっては。
「若い人にまかせる」なんてこれっぽっちも思っていないのに、外部の人には体裁を保とうとするんだなぁ。
どんなに歳をとっても、どんなに記憶障害が著しくても、外面だけはよくしたいんだなぁと、この時しみじみ思いました。
ああー・・・。疲れる。
通帳を返せ!と言った言葉の意味
数日後、郵便局へ直接出向き、母の定額貯金の書き換えの手続きを済ませました。
「実は、お金を全部他の銀行へ預けるって騒いでいたんですよ~」と、ちょっとばかり郵便局の方を脅してやりました(笑)。
母が、お金の管理を私にまかせるなんて言ったことは一度もないこと、母が混乱するので電話は自宅ではなく私の携帯にしてほしいことを、郵便局の方へ伝えました。
家へ戻り、母へは定額貯金の書き換えをしてきたこと、通帳は1週間ほど郵便局側で預かることになるので、来週通帳を取りに行ってくる・・・ということを伝えました。
「ああ、はい、はい。もう好きにやってくれればいいよ」と、母はめんどくさそうに答えました。
細かい手続きの話をしたところで、母が理解できるわけでもないし、それは混乱を招くことになるとわかっているので、私もそれ以上余計なことは言いませんでした。
ところが・・・です。
翌日、いつものように仕事を終えて家に帰り、母のところへ顔を出すと、母は私を見るなり
「通帳返せ!」と言ってきたのです。
出たよ、でた、デタ。
やはり母は、定額貯金の書き換えのことも、通帳は郵便局で預かっていることもすべて忘れているんです。
いつも母が通帳をしまっている場所に、それがないものだから母は焦ったんでしょうね。そしてモノが無くなると、それはすべて私のシワザ。
だけどねぇ・・・。いきなり「通帳返せ!」という言い方されたら、やっぱり私も傷つくのよね。
イラっとして言い返したい言葉を呑み込んで、一呼吸置いて、母に通帳の件を説明しました。もちろん母と同じテンションで返してはいけません。あくまでも穏やかに優しくゆっくりと。
すると母。
「あぁ!よかった。私が通帳持ってないとダメでしょ?お金の管理ができなくなったら、人間おしまいだっていうじゃない」
この言葉に一番驚いたのが私。
そうか、母はそういう気持だったんだ!
物忘れが著しくて、買い物もすべて私に一任していて、いろいろな手続き書類も理解できず全て私に丸投げしてくる母でしたから、いいかげん母の通帳もすべて私に預けてくれたらどんなに楽かと思っていました。
母には、年金から毎月おこづかいという形でお金を渡してやるほうが、私も管理がしやすいのにな・・・とも思っていました。
ところが母には母の考えがちゃんとあったのですよね。
数分前に話したことも忘れてしまうという状況に、母自信が一番困っていて不安になっていたのです。「ボケてしまってよくわからない」と母は時々口にするようになっていましたが、それをなんとかボケないようにするための手段が、母にとってのお金の管理だったのです。
母が通帳にこだわる気持ちがよくわかりました。
いつも手元に通帳を置いて眺めていたい気持ちが本当によくわかりました。
人間、どんなに歳をとっても、どんなにボケても、最後までプライドと感情はしっかり残っているんだよなぁ・・・と思った出来事でした。
コメント
そうでしたか。
認知症と通帳管理。結構抱えてしまう問題ですね。
我が家も施設から、通帳は自室に置けないといわれ、あればあるだけお金使ってしまう状態なんで、
元気な頃に母に指示されてたように、弟がすべて管理しています。
で、現在の母は
息子が管理するのは良いが、娘が息子を騙してお金を巻き上げている
娘は私から153万円も騙しとった大嘘つきの泥棒
と言っています。
ちなみに153万円奪ったこと以外も大変具体的な話をするので、周りが信じてしまい、最初大変でした。もちろんすべて作話です(^_^;)
周りの人の悪口も作話なんでお互いにそれを共有することで、ようやく全員納得で。
母は、親族にお金の苦労させられ、騙されたこともあって、それが人間不信につながってるみたいです。
あと、自分は認知症ではないと思っているため(記憶障害が全くないですしね)
なぜ、お金に関するものを子供が預かるのか理解できない。
そもそも管理されるのが大嫌い
自分が介護で苦労していて、高齢者が大嫌い
というわけで、
まともな立派な私がすべて無理矢理剥奪された、と思ってるみたいです。
前頭葉の萎縮で病気ですから、一切の言葉の説得は不可能と医師に言われていて、
言葉を尽くして説明していた私たちも、もうなにも言わないし、会うと金返せと暴れだすので会えないって感じですね。
認知症も様々で、やはり元気なうちに、任意後見人制度利用しててほしかったですね。
そういえば、母前年も怪我したのでかんぽ生命の請求しようとしましたが、
やはりかんぽ生命は保険請求大変でした。
他社だと母の口座振込のときは子供が代理でいいのですが、
かんぽは主治医の診断書、しかも、病名だけ医師が書き、
以上の病気で意思表示が困難であると証明する、と印刷されてます。
うちは意思表示はできるので、この文面には困惑しました。
意思疎通は困難ですけどね。
最近ようやく主治医が書いてくださり、請求期限内に請求して、母の、施設代引き落とし口座に入れたようです。
かんぽ生命は、代理事務?とかいう制度つかわないと
絶対本人が行くか面会なんですね。
怪我の診断書にも、意思表示できない、にチェックが必要で、手術した他の病院の医師にも説明して納得してもらわないといけない。
後見人指定されてない場合の対処は本当に困難です。
実家は震災で被災してて、この公費解体や、ローン終わってるのに入れられたままだった銀行の抵当権(住宅ローン終わったら自分で法務局で抵当権抹消しないと銀行はやらない)など大変でした。
被災地では認知症のかたの不動産問題は大きくて、法務局も役所も苦慮していました。
ただ私たちが戸籍謄本などもちまわり、医師の診断書提出し、大きく壊れた家屋の写真と罹災証明で、
これは早く解体しないと大変ということで手続きできました。
自然災害増えてますものね。
もしご実家の不動産あれば、一度法務局で登記簿謄本とって、抵当権などご確認をおすすめします。登記簿は他人でも誰でも取得できます。
ちなみに、すでに亡くなったかたの名義のままだと、相続人全員と話し合い、印鑑もらって所有者変更しないと、公費解体してくれなくて、これで困ってるかたもたくさんいるようです。
まだお母様もお元気みたいだし、娘さんに任せるとも言ってるうちにぜひ。
あおいさんへ♪
お金の問題が絡むと、複雑になりますね。
でも、母が「ボケないため」に管理したいのなら、最後までそうさせてあげたいと思いました。
あおいさんのお母さま場合は、前頭葉の病気でうちとはちょっとちがいますから、割り切って付き合うしかないのでしょうね。
自分の親なのに、哀しくなっちゃいますね。
不動産登記は、私が一人で済ませました。
登記簿謄本もすべて私が管理しています。不動産に関しては現金や通帳とちがって目に見えるものではないので、母も何も言いません。
こういうところは助かっていますが・・・。
はじめまして。
いつも楽しく読ませて頂いています。
そらはなさん、お母様の言葉に傷つきながら、でも、
お母様の大切にしているところに気付く事ができるなんて!!
すごいな・・と感じました。
私の母は70代、まだまだ元気ですが、時々老後の事を考えたりします。
母を支える時に、そらはなさんのように私も真正面から母と向き合え
たらいいな、と思いました。
うみさんへ♪
はじめまして(#^^#)
私も今回はじめて母の言葉を聞いて、納得しました。
にしても・・・だったらそういう風に言ってくれればいいのに、私に言うこととほかの人に言うことが違うので、振り回されるんですよね。
まぁ、それが認知障害なんでしょうけど。
私も母をみながら、いつか自分もそうなるのだろうか、そうなったときはせめて子供たちを困らせないようにしなくては・・・と思っていますが、それすら忘れてしまうのですよね、きっと。
はじめまして!
昨年末、格安スマホ検討中このブログと出会いました。
娘ふたりは結婚。主人とふたり暮らし。近くのケアハウスに義母がいます。
アラ・フォー、アラ・フィフの次はアラ・シック?です!
義母も中度認知症です。そらはなさんの気持ちよくわかります!
義母なので本音をだすことが難しいのですがイライラします。通帳は1年前から預かっています。はじめは通帳がない!ない!と日に何度も電話。半年くらいたったころからやっと理解。今日は何にち?何曜日?と日に何度も電話。電話がなるのが怖い!人から日付、曜日、気温など大きくてわかるデジタル時計がいいよと聞いて買って置いたら効き目バッチリでした!
イライラしないようにしてもイライラ!仕方ないですよね!
楽しい事しながら、頑張りましょう!
先日、「人生フルーツ」という映画を観ました♪87才90才のご夫婦のドキュメンタリーです!とてもよかったです♪
これからもよろしくお願いします♪
らんどさんへ♪
はじめまして。
みんなそれぞれいろんなことを抱えながら生きているんですよね。
あ!デジタル時計!いいですね。
私もお店行ったら探してみよう。
でもそんなものを買っていったら、母は「なんでこんなものを買ってきた」と怒るのが目に見えるような・・・。
新しい機器にほんと弱いんですよ、うちの母。よく見もせずにシャットアウトしちゃうんでね。
でも、日付や曜日が表示されるデジタル時計はいいな!と思いました。
「人生フルーツ」ですね。機会があれば観たいと思います。
いろいろな情報をありがとうございます(#^^#)
こんにちは。
お金に関することは、本当に嫌ですよね。
うちも義父が自分で通帳は管理してました。
と、言っても外出できなくなってからは、ずっと記帳もせず放ったらかしでした。
公共料金の引き落としもあり、残高がとても心配だったので、義父を車に乗っけて、金融機関のハシゴをしました。4〜5年放ったらかしだと、記帳もジージーと続き、繰り越し通帳もいっぱいで、とても恥ずかしかったです。
ゆうちょで、普通預金にかなり入れてたので、係の人に定期を勧められました。本人同伴でしたし、意思も確認して私の代筆で手続きをしました。そして、総合通帳の後ろのページに定期は記載されました。
翌日、暗い顔の義父が、疑い深い目で私を見て、「わしの金が無くなった」というのです。
心配していた反応が、案の定出たんです。まさに出たよ!出た!でた!ですよー。
昨日のことなど、すっかり忘れ、ただパニックになっていました。経緯を説明し、一旦は納得しましたが、しばらく同じ状況が続きました。
もう二度と義父のお金には関わらないと、心に誓いました。
命の次に大事なお金とよく言われますが、自分のお金を管理することは、本人の気持ちの支えになってますね。そのことにこだわりがあるうちは、気力があるということですね。
後見人の手続きもたいへんだそうです。家族としては、機会があれば財産を把握をして、見守るしかないです。
あんなに大切にしていたお金ですが、自分の好きなことに使うことなく旅立ったのは、ちょっと可哀想だわと思います。
ともさんへ♪
ということは、ともさんのお父様は、外出できなくなっても入出金を確認することなくただ通帳を持っていたんですね?
お金よりも通帳自体を持っているだけで安心だったんでしょうね。お守り代わりだったのかなぁ。
「あんなに大切にしていたお金ですが、自分の好きなことに使うことなく旅立ったのは、ちょっと可哀想だわと思います」
って・・・なんだか切なくなりました。
母も好きなことにお金を使えばいいのに、もう歳をとったら使うことすらなくなるんですよね。
切なくなりました。
いろいろなことがわからなくなってきて
つれあいに先立たれ一人になって
不安でたまらないですよね。
これだけはちゃんとしなくちゃと生命線のように思って
通帳を抱えてらっしゃるんですね。
娘さんがそばにいらしてもそうなのだから
自分の将来、思いやられます。
ピンピンころりを切実に望むわ…
空花さんは怒りたい気持ちを呑み込んで穏やかに対応なさってすばらしい。
がんばられましたね!
そして、その結果お母様のお気持ちが理解できて寄り添えて本当によかった。
ご褒美みたいです、空花さんが乗り越えたことへの。
ところで、定額貯金の書き換えで通帳を預けるって私には初耳です。
お母様のものを空花さんが代理人として手続きなさったからなのですかねぇ。
TM♪さんへ♪
おっしゃる通りなんですよね。
本人にとっては不安で不安でしかたがない。
それをもっとくみ取ってわかってあげなくちゃならないのに、私ときたらついついイライラしてしまい・・・。
私、全然乗り越えてないですよ。寄り添えてないですよ。
母と話をすることが、ものすごくストレスに感じていますもん。
未熟者です、ほんとに・・・。
定額貯金の通帳預かりは・・・たぶん娘の学資保険が満期になる手続きをしたときも、普通預金口座にお金が振り込まれるので、通帳はいったん預かりになったと記憶しています。
おそらくまとまったお金が動くときは、不正などがないように全体で管理するからなんでしょうかね?
ちなみに通帳は、東北の場合は仙台のほうへ預かりとなり、そこで審査されるようですよ。詳しくはわかりませんけど。