「遺品整理は、いつ始めればいいのか」
この問いに、明確な正解はありません。
心の準備が整う時期は人それぞれ。
期限が決まっているわけでもないからこそ、気づけば何年も手をつけられないまま、時間だけが過ぎていくこともあります。
実際、私も父の遺品整理を先延ばしにしたまま、あっという間に3年が過ぎてしまいました。
遺品整理が進まなかった理由
父は突然亡くなりました。
前日まで確かにそこにあった「生きていた証」が、そのまま残る部屋に足を踏み入れることは、想像以上につらいことでした。
それでも、残された私たちの生活は続いていきます。
各種手続きが一段落したあと、まず取りかかったのは、父の衣類と寝具の処分でした。
亡くなって半年以内であれば、市が無料回収してくれる制度があり、初盆で家族が集まったタイミングで、一気に片づけました。
また、父は町内会の仕事をしていたため、和室の縁側には大量の資料や道具が山積みに。
これは、引き継ぎが必要だったこともあり、比較的早い段階で整理が進みました。
当時の私は、ちょうど社会人になった子どもの断捨離に力を入れていた時期でもあり、
「この勢いで父の遺品整理も進められるはず」
そう思っていたのです。

なぜ、私は遺品整理をやめてしまったのか

ところが、父が亡くなって3カ月が過ぎた頃、私は遺品整理を、ぱったりとやめてしまいます。
理由は、母の猛反対でした。
すべて私に任せきりなのに、自分は何もしない母に、正直、腹が立ったこともあります。
けれど時間が経つにつれ、これは母なりの悲しみ方なのだと、少しずつ理解できるようになりました。
父のものがそこにあっても、誰も困る人はいません。
そして何より、母の心をこれ以上傷つけたくなかった。
そう思い、無理に進めるのをやめました。
同時に、私自身の気力や体力、
「本当にこれでよかったのだろうか」という迷いも重なり、気づけば父が亡くなってから、3年が過ぎていました。

再び向き合うことになった、思いがけないきっかけ
再び、父の遺品整理に向き合おうと思えたきっかけは、夫の実家の状況を目の当たりにしたことでした。
義父が亡くなり、1年ぶりに訪れた義実家。
リビングこそ多少片づいていたものの、ほかの部屋は、足の踏み場もないほど物であふれていました。
義母の認知症も進み、キッチンには使い道のわからない物が山積み。
食器棚には、100人を招けそうなほどの食器と、謎の空き瓶。
「どこの家も、同じなんだな……」
そう思うと同時に、このままでは、我が家も同じ状況になる…
そんな焦燥感が、静かに胸に広がりました。
遺品整理再開
再び遺品整理に着手した私の前に立ちはだかったのは、父が遺した大量の本や資料でした。
これらは、私にとっては必要のないもの。
それでも処分をためらっていた理由は、
「価値があるかもしれない」という、淡い期待。
そこで、古本業者に写真を送り、見積もりを依頼しました。
結果は――引き取り不可。
その知らせを受け取ったとき、 不思議なほど、迷いはすっと消え、大量の本を紐でくくり始めました。



父の想いを受け止めて、手放す
戦争を経験し、物のない時代を生き抜いた父にとって、本を買い揃えることは「豊かさ」や「知識への憧れ」の象徴だったのかもしれません。
父の人生を想像し、その想いを受け止めたうえで、手放す。
それができたことで、私はようやく、遺品整理と正面から向き合えるようになりました。
遺品整理は、結局「残された家族がやるしかない」
遺品整理は、結局のところ、
残された家族がやるしかない作業なのだと思います。
生きた痕跡をすべて消すことは、
亡くなった本人にはできないからです。
どんなに身軽に暮らしていても、
どんなに「迷惑をかけたくない」と思っていても、一人の人間が生きた証は、必ず残ります。
それをひとつひとつ手に取り、
「残す」「手放す」を決めるのは、残された家族しかいません。
だから、遺品整理とは、モノを片づける作業ではなく、亡くなった人の人生を受け止める時間なのだと、今はそう感じています。
これからの私ができること
60歳となった私が、これからできることがあるとすれば、それは「すべてを消すこと」ではなく、
・モノを増やしすぎないこと
・何を大切にして生きてきたのか、伝わるようにしておくこと
・「これは処分していい」と、言葉にして残しておくこと
そのくらいなのかもしれません。
それでも、生きた痕跡そのものを
完全に消し去ることは、誰にもできません。
だから私は、遺品整理は
「子どもに迷惑をかけないためにやるもの」
とは、少し違うものとして捉えるようになりました。
遺品整理の先に見えてきた、これからの暮らし
父の遺品を片づけながら、何度も自分に問いかけました。
これからの私には、どれだけのモノと、どれだけの空間が必要なのだろう、と。
そして見えてきた答えは、すべてに目が届く、ちょうどいい住まいでした。
遺品整理を終えたその先に「減築リノベーション」という選択肢が見えてきたのは、無理に導き出した結論ではありません。
父の遺品整理を通して、自然とたどり着いた答えでした。
これからは、身の丈に合った住まいで、管理できる量のモノとともに、静かに、軽やかに暮らしていきたい。
そんな思いが、今の私の中で、少しずつ形になっています。



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