母は軽度認知障害です。
認知症ではなく、あえて軽度認知障害と言うのは、母がまだ自分の身の回りのことは自分でできるから。
脳の細胞が壊れることによって起こるとされる中核症状はいろいろありますが、母の場合はお金のことが絡むと不安要素が増し、攻撃的言動をするようになります。
父が亡くなってから4か月。
認知症についていろいろ勉強するようになり、母のことも理解しようと努力はしていますが、時々いやになることもあるんですよねぇ・・・。
それでも私がこの4か月で学んだこと。
認知障害の始まり
父が亡くなってから、金融機関で父の通帳のお金の相続手続きをしました。
相続手続きというと、父のお金を誰が相続したのか?と思う方もいると思いますが、亡くなった人の通帳のお金を、相続人の口座へ移す手続きのことを、金融機関では「相続手続き」と呼んでいます。
相続人の代表として私が金融機関の窓口へ出向き、相続手続きをしました。
この場合、相続手続きをした私の通帳口座へいったんお金が移されますが、その後相続人同士でどのようにお金を分けるかは、どうぞご勝手に・・・ということらしいのです。
相続したお金は、もちろん母へすべて渡すつもりでしたが、「定期預金にする?」「90歳まで入れる保険もあるらしいよ?」「光熱費が引き落としになる通帳へ1年分まとまったお金を入れておく?」などなど、私が一度にあれこれ提案したところ、母は突然激昂したのです。
「泥棒と同じだな!」
「昔から相続争いって言うもんね!」
この時、私はようやく母が認知症なのではないかと思うようになりました。
認知症の中核症状・母の場合
認知症の中核症状として母の症状と照らし合わせてみると、ほぼその通りなので、母の言動は認知症ゆえに致し方ないのだと思います。
1.記憶障害
新しい情報を一時的に捉えておく場所と、重要な情報を長期に保存する場所。
人間は、脳の中に情報をストックしておき、必要な時に取り出すことができます。
ところが認知症になると、新しい情報を捉えることも、覚えてストックしていた記憶も失われるのですよね。
さっき聞いたことを忘れるのは新しい情報を捉えることができないから。
症状が進行すると、覚えていた記憶も失われていきます。
母の場合は、新しい情報を覚えることができない。
父の口座にお金がいくらあるかという記憶はまだしっかり残っていますが、父の口座が凍結されたこと、私の通帳にいったんお金が移ったことなどは、理解できません。
「一時的にお金が私の口座に入っているからね」と母に説明し、その通帳を母に渡したのですが、次の日には「なんであんたの通帳にお金が入っているの?」「お父さんのお金はどこにいったの?」とパニックになりました。
2.見当識障害
記憶障害と並んで早くから現れる見当識障害。
現在の時刻や年月、自分がいる場所がわからなくなります。
予定を立てても、それに合わせた準備ができなくなる。
症状が進行すると、日付や季節がわからなくなるので、「今日は何日だ?」と何度も聞いたり、季節に合わせた服装ができなくなります。
出歩くと迷子になったり、自分の家でさえトイレの場所がわからなくなります。
母の場合は、「○日にAさんが家にくるよ」と説明し、カレンダーにも記載するのですが、いざAさんが訪ねてくると、忘れている。
午前中に近所のお友達から電話があり、午後にそのお宅へお茶を飲みにいく約束をしていたのに、午後になると忘れている。
増して、初めてお会いするケアマネさんが介護プラン作成のために家に訪ねてくるというようなことは、当然覚えているはずもなく、玄関先で「けっこうです」とお断りしている(何かの訪問セールスだと思ったらしい)。
まだ、家の中で迷子にはなりませんけどね・・・。
3.理解力・判断力の低下
考えるスピードが遅くなる。
2つ以上のことが重なるとうまく処理できない。
些細な変化や予想外の出来事で混乱する。
父が急逝したことで混乱し、認知症の症状が発覚した母ですが、思い起こせば2~3年前に「あれ?」と思うような母の言動はありました。
料理が得意だった母ですが、数年前から料理をするのをめんどくさがるようになりました。
高齢だからしかたがないと思っていたのですが、父が「母の料理がおいしくない」と言うようになったのも1~2年前。
父が亡くなって、膨大な手続き関係の話を、母が安心できるようにといちいち事細かに母に伝えていたのですが、余計混乱して怒り出すというのもわかったので、それ以降詳細を伝えるのはやめました。
「大丈夫」「今、手続き中」「ちゃんとやってるから」
母にはこの言葉しか言いませんが、それで安心したように納得します。
そいえば先日「洗濯機の使いかたがわからないから教えてくれ」と言っていた母ですが、目に見えないメカニズムが理解できなくなるのも、認知症の特有の症状です。
4.感情表現の変化
認知症の人は、その場の状況が読めなくなります。
記憶障害や見当識障害、理解力・判断力低下のため、周囲の人の言動に対して正しい解釈ができなくなるからだと言われています。
突然怒り出すのも認知症の症状のひとつだそうです。
母が些細なことで突然怒り出すのがとてもいやなのですが、これまで母と接してきてどうやらお金のことが絡むと不安が増強し、起爆スイッチが入るのだということがわかってきました。
お金の話は極力しない
年金もあてにできないし、老後はどうやって暮らしていこう・・・などと、私が不安になるように、母にとってもお金は大事な命綱なのだと思います。
これまで生きてきて自分が一生懸命貯めてきたお金。
特に使い道はないけれど、お金があれば今後入院することになっても、施設に入ることになっても、とりあえず安心材料となるのがお金。
だから、父の口座のお金が一時的に私の通帳に移ると、お金が取られたかのように思ってパニックになるんでしょうね。
何度説明しても次の日には忘れて、また何度も「お父さんのお金はどこにいった?」と聞いてくる母。
そういう状況にうんざりし辟易していたので、金融機関から残高証明書を発行してもらいました。
「故 ○○○○(父の名前) 相続人△△△△(母の名前)」という名義で、父が亡くなった日付の口座の残高証明書です。
母へはこの残高証明書を「証書」だと言って渡し、これらのお金はすべて普通預金で銀行に預けていると話しています。
実際には、A銀行のお金は、同じA銀行に母の名義の通帳があったので、母の定期預金口座にお金を移しました。
B銀行には母の通帳がないので、私名義の通帳に入れたままです。
C銀行のお金は、父の税金を支払ったり母の光熱費支払いのための流動的なお金として、やはり私名義の通帳に入れたままにしています。
これらのお金を取ったり使ったりするつもりはさらさらありませんが、正直に母に話したところで、理解できずにパニックになることがわかっているので、今後もいっさい触れることはないと思います。
母は、手元にある残高証明書を毎日眺めては安心し、さらに毎日「お父さんのお金はどこにいった?」と聞くので「そこに証書(残高証明書)があるでしょ」と話すと、「ああ、そうか」と安心します。
そしてその直後に「お父さんの通帳はどこにある?」
「通帳はその証書になったんだよ」
「ああ、そうか」
・・・という会話を、毎日10回ほど繰り返し、最後に「よしっ!」と納得するパターンとなっています。
私は毎日デジャブを経験しています(笑)。
認知症の場合、いや、軽度認知障害であっても、新しい情報を伝え、判断力を要するようなことは、「自分が理解できないわけがない」「覚えられないはずがない」(理解できない、覚えられないということを受け入れられない)と思うあまり、不安が増してパニックになるんですね。
母を騙すとか、ウソをつく・・・とかそういったことではなく、不安材料を与えない。
楽しいこと、安心する情報だけ選んで伝える。
これが、この4か月母と接して、私が学んだことでした。
コメント
そらはなさん、こんにちは
たった4か月で適切な対応をなさったのは素晴らしいと思います。
やはり「地獄の沙汰も金次第」お金が手元にないのは不安のスイッチが入りやすいようです。
お父様の口座の残高を覚えてらっしゃるのは凄いですね。
今の状態ならお母さまをだますとかそういう事でなく、お母さまが理解できる範囲でうまくやっていくのがベストだと思います。
母は最期までそれなりにお金の管理していましたし、義父は煩雑な介護保険手続きにギブアップして施設に入るころには完全に息子にお任せになったのでお金の件での経験談はお話しできませんわ。
頑張ってください。時には愚痴って吐き出してくださいね。
しろうさぎさんへ♪
父が亡くなったとき、つくづく思いましたよ。
「地獄の沙汰も金次第」って。
戒名料ってこんなに高いんだ!って初めて知りましたもん(^-^;
親子であっても、やっぱりお金が絡むといろいろ複雑になってきますね。
いっそのこと、施設できちんと割り切って生活したほうが、お金に関してはすっきりするような気がします。
自分が、はたして子どもたちに迷惑かけずに年老いていけるのか・・・なんだか不安になってきました(-_-;)
そらはなさん。こんばんは。
4カ月の間、冷静にお母様と接しておられましたね。すごいです。
昨夜、ザ・サンデーという番組で、ディレクターをされてる女性のお母様が数年前から認知症になられ、その経過をカメラに撮ったものが放送されてました。昨夜は前編で来週は後編です。
そらはなさんの書いてみえるとおり、
料理の味付けができない。
探しものが増える。
会話の内容が記憶できず、何度も聞く。
などなど。
中でも1番驚いたのが、その方は発症前まで毎日几帳面に家計簿を付けてみえました。
娘さんが今も付けているのかと尋ねると、毎日収支まできっちりと付けていると言われました。実際の家計簿は数年前から付けておらず、書き殴るなどの混乱がみえました。娘さんは、家計簿にお母さんのプライドがあるのだと感じられました。
東京に戻る娘を心配したり、普通の状態の時もあるそうですが、認知の世界を行ったり来たりしているそうです。
普段は93歳の夫がお世話や家事をされており、まさに老々介護です。
私も自分の両親を思い出し、涙が出ました。
介護中の方には、かなり辛い映像でしたが、少しでも、介護がしやすい世の中になってほしいと思いました。
ともさんへ♪
いやいや、なかなか冷静に接しているわけではないのですけどね・・・。
私の立場をわかってくれる姉がいるだけでも、ずいぶんと心が救われます。
ザ・サンデー。観たかったなぁ。
共感するところ、学ぶところが、今の私にはたくさんあっただろうなぁ・・・。
うちの母も、時にびっくりするくらいしっかりしていることがあるのですが、それも認知の世界を行ったり来たりなんでしょうね。
自分の親だけど、時に割り切って接することが、一番ストレスを抱えずに済む方法かな・・・とも思っています。