母の言動に違和感を覚えたのは、今から13年ほど前。
母が80歳の頃でした。
お正月には姉一家が実家に集まるのが恒例でしたが、その年、母は突然、
「◯◯子たちが来るなんて聞いていない!」
と怒り出しました。
事前に何度も伝えていたのに、母はまったく覚えていなかったのです。
単なる物忘れ? それとも――。
今思えば、その前から小さな兆候はありました。
母が70歳になる頃、私にこう言ったのです。
「そろそろ仕事を辞めて、私たちの面倒をみてくれないか?」
母は女性の自立を大切にし、私もその背中を見て育ちました。
そんな母が「仕事を辞めろ」と言うとは思ってもおらず、突然の変化に戸惑いました。
その頃の父も母もまだ全然元気だったのに…です。
今振り返ると、これも認知症の始まりだったのかもしれません。
料理の変化と父の異変
母の変化は、父の食事にも影響を及ぼしていました。
ある時、父の食欲が落ち、体重が3〜4kg減ってしまったことがありました。
病気を疑って検査を受けましたが、異常なし。
後になって気づいたのは、母の料理の味付けが変わっていた ことです。
「認知症になると、料理がうまく作れなくなることがある」
と言われますが、まさにそれだったのかもしれません。
父は家での食事が進まなくなり、それが体重減少の原因だったのでしょう。
認めたくなかった「認知症」という現実
それでも、私は当時の母を「認知症」とは認められず、年齢による「物忘れ」だと思い込もうとしていました。
そんな母が認知症だと確信したのは、父が急逝した直後です。
突然の出来事に動揺し、母の言動はさらにおかしくなりました。
それでも私は、
「急な変化でパニックになっているだけ」
と思い込み、現実を受け入れようとはしませんでした。
しかし、父の相続手続きを進めていたとき、母は私にこう言いました。
「お前は財産を狙う泥棒だ!」
この言葉を聞いたとき、私はようやく母の認知症を認めざるを得ませんでした。
介護の始まりと施設入所までの道のり
周囲のアドバイスもあり、介護認定の手続きを進め、かかりつけ医に相談。
医師はすぐに母に認知症の薬を処方してくださいました。
その後、母を説得して自宅にヘルパーさんを迎え、在宅介護がスタート。
しかし、母の言動に振り回され、家に帰るのが嫌で、車の中で時間をやり過ごしたこともありました。
泣いたり怒ったり自己嫌悪に陥ったり、私自身もかなり心をかき乱される日々。
それでも、図書館で認知症に関する本を読みあさり、介護のプロの方からのアドバイスを受けながら、ようやく穏やかに暮らせるようになるまで5年ほどかかりました。
そして昨年末、母は老健施設に入所しました。
父が亡くなってから8年の年月が流れていました。
今では母も施設を完全に「自分の家」 だと思い、穏やかに暮らしています。
施設入所後、母は私を忘れた
施設に入所後、母は私のことを忘れてしまいました。
それでも、面会時には問いかけには答えるし、会話も成り立ちます。
「お母さん、ご飯食べた?」
「食べたよ、なんでもおいしく食べてるよ」
そんなやり取りができるだけでも、十分だと思うようになりました。
母の記憶から私は消えてしまいましたが、母が穏やかでいられることが何より大切です。
これでよかったのだと思っています。
認知症と向き合う家族へ|小さな違和感を見逃さないために
もし高齢の親に対して 「あれ?」 と思うことがあったら、それは大切なサインかもしれません。
✅ 話したことをまったく覚えていない
✅ 料理の味付けが変わる
✅ 性格が以前と違うと感じる
こうした変化に気づいたら、メモを取る、専門家に相談する など、早めの対応を心がけることが大切です。
最初の違和感を見逃さず、早めの対応をすること。
それが、認知症と向き合う家族にとって、何より重要なのかもしれません。
まとめ
母の認知症を受け入れるまでには、長い時間がかかりました。
今振り返ると、最初の小さな変化をもっと早く認識し、対策を講じていれば、もう少し違った介護の形があったのかもしれません。
それでも、今は母が穏やかに過ごせていることが何よりの安心です。
認知症は、家族にとっても大きな試練です。
でも、一人で抱え込まず、周囲の助けを借りながら、少しずつ向き合っていくことが大切なのだと、今は…、今だからこそ思っています。
コメント
「がんばらない節約とシンプルな暮らし」の時からそらはなさんのファンで、10年以上の愛読者です。一度だけ昔のブログでコメントさせていただいたことがあります。確か、「どうしたらそんなに優秀で素敵な息子さんたちに育つんですか?秘訣を教えてください」って(笑)子育て真っ最中だったので必死でした。
最初は節約をきっかけに拝見したブログですが、娘の大学受験の時の準備や親が立て替える国民年金、美味しそうなレシピなど、本当に沢山参考にさせてもらいました。ありがとうございます。
私も母が認知症になり、以前こちらで読んだ介護認定の記憶があったので、そらはなさんの昔の記事を遡って再読したりしていました。
母はまだ70代前半ですが、この数ヶ月でかなり症状が進行しています。我が家の隣市で一人暮らしをしているのですが、ヘルパーさんの力を借りていてもそろそろ限界かなというところまできていて、入所を考えています。以前のそらはなさんの記事で「全部自分で抱え込むことが母の幸せにつながるわけではない」(だったかな?)、といった一文が響きました。
以前、我が家に数ヶ月母が滞在したときに「やっぱり自分の家がいいな」と言っていた母を想って独居をサポートしてきましたが、母が安全で安心な生活を施設で送れるよう、私もそらはなさんを見習って一歩進もうと思います。
感謝の気持ちを伝えたくて、また、これからも色々参考になる情報を発信してほしくて(笑)コメントしてしまいました。長文になってしまいごめんなさい。いつもありがとうございます。これからも楽しみにしています。
らんさんへ
旧ブログから読んでいただいているなんて、とってもうれしいです。
3人の子どもたちは、今や独立し、それぞれの暮らしをしているので、時の流れの早さを感じますねー。
子育てが終わると介護が待っている…とよく言いますが、私もそんな感じでした。
娘の私と同居しているのに、母の介護を誰かに頼るなんてできないと思い込んでいた当時の私。
でも、今は誰かに頼っていいんだと、堂々と言えます。
らんさんのお母様にとっても、らんさんにとっても、お互い幸せな暮らし方ができると良いですね。
自分の家がいい…というのは誰もがそう思うことですが、誰かの手助けがないと暮らせなくなった時には、家にこだわる必要はないのだと思うようになりました。