「探し物はなんですか?」
はい、探し物はわかっています。
無くなったと、母が騒いでいるのですから。
「見つけにくいものですか?」
はい、非常に見つけにくいです。
当の本人がどこに置いたのかわからないのですから。
認知症である母は、時々ものをどこかにしまってわからなくなってしまいます。
そのたびに、あらゆる場所を探すのですが、今回はこれまで想像しなかった場所から出てきました。
薬をどこへやった?
月に1度、母の薬を病院へもらいにいきます。
高血圧の薬と、認知症の薬。
その日も、4週間分の薬をもらってきたので、母のところへ持って行きました。
「ありがとう」と母は言い、いつものように薬を定位置へ置きました。
ダイニングテーブルの椅子の背宛ての部分。
そこへ薬の袋をぶら下げるのが、母の定位置なのです。
母は朝食時、1日分の薬をテーブルの上に出し、忘れないように服用しています。
母が、いつもの定位置へ薬を置いたのを確認して、私も自分の部屋へ戻りました。
ところが。
わずか数分後、母がやってきて言いました。
「私の薬、どこへやった?」と。
薬が紛失 見当たらない
ええええー?
つい数分前に薬を置いてきたのに、なくなったってどういうこと?
もっとも、こういうことは今に始まったことではありません。
母は認知症なのですから。
父が亡くなった直後は、毎日のように何かが無くなって、それを探し出すまで大騒ぎしていたものですが、今では私も動じない、あわてない。
なくなった薬は、必ずどこかにある。
さてさて、今回はどこに隠したのか、見つけてやりましょう。
探し物はどこですか?
まずはリビングの中をぐるっと見渡します。
母が日常的に開けるような引き出しや戸棚の中を、ひとつひとつ開けて確認します。
「そんなところに置くわけがない!」と母は言うけれど、聞こえないふりです。
しかし、リビングでは見つからなかったので、今度はキッチンへ範囲を広げます。
冷蔵庫の中に財布が入れてあったという話はよく聞くけれど、残念ながら冷蔵庫の中からは発見できず。
食器棚の中にも見当たらず。
今度は寝室のベッド周囲を、のぞき込んだり這いつくばったり、布団をめくったり。
それでも発見には至らず。
最後は、仏壇周辺をくまなくみたけれど、やっぱりない。
母の移動範囲である場所はすべて探したけれど、見つからない~。
さて。
母の薬は、いったいどこにあったと思います?
認知症の紛失は一緒に困りながら探すべし
認知症である母は、時々自分でものをしまいこんでわからなくなります。
相続の手続きのために取り寄せた書類のファイルを、なくさないように目立つ
リビングのテーブルの上に置いていたのに、ある日突然なくなりました。
これは、まもなくリビングのテーブルの引き出しの中から出てきました。
母が毎日予定を書き込む日記代わりのカレンダーも、ある日突然なくなりました。
母はいつもリビングのテーブルでカレンダーにメモをするので、リビング内ばかりを探していましたが、しばらくして母の寝室のベッドの上で見つかりました。
その他にも、紛失したものは数知れず。
以前の私ならば、怒りながら探していましたが、今はちがいます。
怒ったところで、すぐに見つかるわけでもない。
なくなったと騒いでいるのは母ですが、一緒に騒いだところでどうにもならない。
私が騒ぐと、母の不安は増幅し、ますます母は混乱してわけがわからなくなるんですよね。
認知症の母が、ものをなくすのは致し方ないこと。
なくされて困るようなものは、私が管理すればいいだけの話なのです。
母と一緒に「困ったねー」「どこにあるかなー」と探していると、母も次第に落ち着いてくるのがわかります。
怒りは怒りを呼ぶけれど、共感は安心を呼ぶものです。
認知症との付き合い方は、怒らず焦らず、一緒に困ること。
これでいいのだと思っています。
答え
井上陽水さんの「夢の中へ」という歌があります。
「探しものは何ですか?
見つけにくいものですか?
カバンの中も つくえの中も
探したけれど見つからないのに
まだまだ探す気ですか?
それより僕と踊りませんか?
夢の中へ 夢の中へ
行ってみたいと思いませんか?
~途中略~
探すのをやめた時
見つかる事もよくある話で
踊りましょう 夢の中へ
行ってみたいと思いませんか?」
うーん。まさにこれ。
必死に探さず、踊り出すくらい脱力系でいいのでしょう。
明日また病院へ行って、ワケを説明して薬を再処方してもらえないかなぁ?なんてことをぼんやり考えた時、母の寝室の洋服ハンガーが目に留まりました。
なんと!薬!
そのハンガーにかかっていたんですよ。
それを見た瞬間、本当に脱力しましたもん、私。
これで安心して眠って、夢の中へ行ける~!って、思いましたもん、私。
答え:寝室のハンガーにかけられていた・・・です。
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