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認知症の母と穏やかに関わるためのパスワード

母と事あるごとに衝突していたのは4〜5年前のこと。
しかし、最近では特にぶつかることもなく心穏やかに暮らしています。
それは、私が母と程よい距離感で付き合えるようになったからだと思っています。

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高齢の母の暮らし

今年89歳になる母は、今も一人暮らしをしています。
もっとも一人暮らしといっても、私達の居住空間は実家と廊下でつながる二世帯住宅。
なので、母が何か困ったことがあると、すぐに私が対処することができます。

また、日中は母が一人で自宅にいるので、母が暮らす上で困らないよう、先手を打って用意をしておきます。

ありがたいことに、朝起きて着替える、顔を洗う、食事を摂るといった基本的な生活習慣は、今も母が一人で行うことができます。
しかし、ふだんと少しでも違ったことが起きると、母はパニックになります。

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母がパニックになる出来事

例えば、何かの拍子にテレビのB-CASカードが外れてテレビが映らなくなった時。

テレビのリモコンの電池切れで、リモコンが操作できない時。

ベッドサイドの灯りのコンセントが抜けて、ライトが点かない時。

普通ならば、ちょっと想像力を働かせればわかることですが、認知症でもある母は、目の前に起きている事実がすべてであり、その先どう対処したらよいのかはわかりません。
過去の経験はもはや役に立ちませんし、その先の想像力を母に求めるのは無理なのでしょう。

また、問題を解決するためのやり方を、母に説明するのは極めて無駄なことです。

理解力、判断力も衰えてきている母へは、説明したところですぐに忘れるし、理解するわけでもないのですから。

だから私は、母の困りごとを黙って解決します。
余計な説明はしません。
こういう時は、こうすればいいよ…という簡単な説明もしません。
言えば言うほど、自分自身がしんどくなるからです。

5年前はわかっていなかった

父が急逝したあと、私は父の遺した仕事の整理や、公的手続きに追われ、仕事の合間の休日をすべてそれらに費やしました。

突然遺された母が、困らないように、不安にならないように、私はひとつの手続きをするたびに、毎回母へ相談するようにしていました。

当時はまだ母が認知症だなんて思っていなかったので、母の意見を聞きながら対処するのが一番だと思っていたからです。

ところが、毎回毎回事あるごとに母は突然キレて激昂します。
父の通帳整理を進めている時に、「あんたは財産を狙う泥棒だ」と母から言われた時、初めて母がおかしいということに気が付きました。

突然夫を亡くしパニックとなった母は、一気に認知症の症状が進んだのでしょう。
その前から、母の言動が何かおかしいな…と思うことはあっても、高齢だからしかたがないと思っていました。
母から泥棒扱いされた私は、心底苦しくて悲しくて、家出したいと思ったほどです。
しかし、逃げ出すわけにはいきません。
その日から私は、図書館に何度も足を運び、認知症について勉強をしました。

認知症は治るものではないのですから、周囲の人間がそれを理解し関わっていくしかないのです。

最初の頃は、頭では理解していても、なかなか感情がついていけず、何度も悔し涙を流したものでしたが、次第に母との関わり方がわかるようになってきました。

高齢の親とは距離を置く

私は、なにもできない母を哀れんで、常に側にいて、なんでもやってあげることが必要だと、当時は思い込んでいました。
また、年をとっても母は母であり、いつまでも私の前を歩いて導いてくれる親であると思っていました。

だから、父が亡くなった後、いろいろな問題を母と一緒に考え解決していきたかったのだと思います。

だけど、理解力も判断力も低下した母にとって、毎回問いかける私の言葉は、苦痛だったにちがいありません。
だから母はパニックになり、その不安を隠すために怒り出す。

それがわかるまで2年かかりました。

認知症になっても、母にはプライドもありますし、親としての誇りもあります。
母が日常生活を一人で行えるよう、歩いていけるよう、私は目の前の草を刈って、母が転ばない程度に見守るだけでいいのです。

そして、必要以上に踏み込まず、ほどほどの距離感を保つことは、私自身のメンタルを守ってくれることになります。

たとえ家族でも、距離感ってとても大事です。

高齢の親との関わり方は、距離を保ち危険のないよう見守る程度で良いのだと思っています。

万能の言葉

ゆうべも母がやってきて言いました。

「テレビ映らないんだって!壊れた!」と。

きっとまた、母が自分で主電源を切ったのでしょう。
私は黙って主電源のスイッチを入れて言いました。

「大丈夫!」

これは、母を安心させ、私の精神を守ってくれる有効なパスワードなのです。

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